「折れない スポーク Ⅲ」

・・・アドベンチャーサイクリストのためのハブ「マキシカー」・・

　まさに旅行用自転車のためのハブがある。マキシカーというフランス製のハブだ。入荷量が極めて少なく、しかもかなり高価なこともあり、めったに見掛けることはない代物だ。わが国の旅行用自転車に大きな影響を与えたルネルスが好んで使っていたことから有名になり、オタク的自転車マニアの間で珍重されるようになった。

　ところがこのハブ、ルネルスが好んで使用していたことからもわかるように極めて実用的で、欧米では多くの長距離旅行用自転車や冒険旅行用の自転車に使われてきた。

　ハブの心臓部には精度の高いアンギュラーコンタクトベアリングが組み込まれ、それを守るシールは二重構造となっている。しかも外側のシールはネジ式でかなり凝った設計だ。

　ベアリング調整はシャフトにガタが出た場合のみロックナットを締め込んでゆくだけというもの。従来のカップ＆コーン式ハブのように分解調整を必要としない。というよりは分解ができない（してはいけない）構造となっている。ちなみに調整が限界に達したときには、ラジアルベアリング同様ベアリングユニットごと交換ということになる。スモールパーツの入手については本体を入手するよりさらに難しいが、そこまで使い切ったという話はいまだ聞いたことはないので特に心配はいらない。

　さらにこのハブのすばらしい点はフランジとスポーク穴の構造。フランジは肉厚で基本的にスポークが折れづらくなっている。しかもスポーク穴には一つ置きにザグリが施されていて、スポーク首部がフランジに密着するようになっている。

　またもう一つ特筆すべき点は後ハブの右側フランジのスポーク穴。なんと引っ掛け式になっている。基本的にスポークが折れづらい構造に加え、もし折れてしまってもフリーホイールをはずすことなく簡単に交換できるようになっているのだ。旅行用自転車のハブとしては至れり尽くせりといったところで、まさにアドベンシャーサイクリストのために生まれてきたハブといえよう。

　ハブシャフトロックナット寸法は、フロントが100mmで、リヤが122mmと127mm。クイックレリーズ用の中空シャフトとロックナット用のソリッドシャフトの２タイプが存在する。その他、タンデム専用のものやエキスパンダーブレーキと組み合わせられたものもリリースされている。フランジはバフ処理のジュラルミン製で、磨き込むとクロムメッキのような輝きがあらわれる。

　ハブ単体で見るとかなり古臭いデザインではあるが、自転車に組み込んでみると結構おしゃれに映える。

旅行用自転車がかなり少なくなってしまっている今日、旅行用自転車の部品自体かなり入手困難な状況になっている。その中でもこのような特別な部品にいたっては市場で見ることすら皆無に等しいといった状態だ。とは言え稀に専門店やネットオークションに顔を見せることもあるので、そのような機会に準備しておくのがよいのかもしれない。

これまで３回にわたり、自転車旅行中のトラブルでもっとも厄介なスポークトラブルの回避方法を述べさせていただいた。もちろんそこにはパーツの選択だけに限らず乗り方や組み方も大きく影響を及ぼしていることも事実。自転車を大切に扱いいたわりながら乗ることもトラブル回避に不可欠なのである。つまらないメカトラブルで冒険を断念させないためにも。