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※自転車研究家の鈴木邦友評議員からの報告です。(2017年5月7日)

旅行用自転車について考える

旅行用自転車の設計は 素材選びからはじまる

鈴木邦友

 自転車に悪影響を与えるものの代表が雨。金属でできた自転車にとって、雨が誘発するサビは最大の劣化要因となる。雨のあとには乾燥した大気の中、太陽光線をいっぱい浴びさせたくなる。ところが、時には、水分を早く蒸発させようと太陽光線に浴びさせたことが、劣化を進める原因となることもある。

自転車を構成する材料を見てゆくと、金属、合成樹脂、ゴム、革(皮)、コットン、油脂に大別できる。金属は、鉄とアルミニウム等に、成樹脂は柔らかいビニール系と硬いプラスティック系に、ゴムは天然ゴムと合成ゴムに分類される。さらにそれらは成分の違いや加工工程の違いにより細かく分けられ、それぞれに異なる性質をもったものに分類される。もちろんそれらはすべて機能や性能が違い、得意・不得意とする外力や環境も異なっている。自転車を長持ちさせるためには、一つひとつの材料に適した環境を作り出してゆかなければならないということになる。

しかし、そんなことができるのは博物館での話、実際に自然の中を走る自転車にとってはそんなことは不可能。ということは、最初に、その自転車の使い方に合った、またその自転車の使われる環境に適した素材を選ぶことの方が賢明だ。 

 使用環境に適した素材を選ぶためには、各素材の機能や性能、性質を知ることが必要となる。 

金属

 自転車を構成する素材のうち、最も安定し、強度が高いのが金属。その中でも鉄は一般に剛性が高く、大きな外力による変化が少なく、変化しても元に戻るという物性を持つ。さらに加工のしやすさも他の金属に比べ優れている。そのため、自転車では力の加わる部分に多く使われている。さらに修理性が高いのも鉄の魅力。鈑金修理や溶接修理が容易なのも、鉄ならではの特徴で、自転車や自動車等の乗り物にはうってつけの素材となる。ただし他の素材より比重が大きく、湿度の高い環境では錆びやすいという欠点をもつ。そのためさらに剛性を上げ使用量を減らすことで軽量化を図ったり、その表面にメッキや塗装を施し自然環境に耐えられるようにしたりすることが求められる。

 自転車の素材で次に多く使われるのがアルミニウム。旅行用自転車でも部品の多くがアルミニウムから作られている。鉄に比べ比重が小さく、自然環境下で錆びづらいことから裸で使うことができる金属だ。またアルミニウムの中には鉄に近い性質をもつもの(ジュラルミン)もあり、力のかかるところで使われることもある。短所としては降伏点が現れないことから、変形すると元に戻りづらく、縮めたり、伸ばしたり、また曲げたりする部分に使うことができない。簡単に言えばスプリングのような使い方はできないということになる。繰返し力がかかるようなところに使用すると強度以下で破断してしまうこともある。さらに摩擦にも弱いため摺動部等に使用することも難しい。

というわけで、力強さとしなやかさ、耐ストレス性や耐摩耗性が必要な部分、たとえばネジ、スポーク、シャフト、軸受、バンド、チェーン、ワイヤー、ギヤ等には不適当な材料ということになる。

鉄、アルミニウム以外の金属としては、黄銅やチタンが微量であるが上げられる。真鍮は摩擦抵抗が少なくオイルレスでも焼きつきづらく安定した滑りを保つ性質をもつことから、摺動部のブッシュやスポークのニップルとして使われている。またチタンは軽量かつ強度が高いことから鉄の代わりに使われることもある。

合成樹脂

 金属に次いで自転車に多く使われるのが合成樹脂。通常プラスティックやビニールといった名称で呼ばれている。その名のとおり人間が作り出した素材で、その数は非常に多い。ポリプロピレンのような柔らかい素材もあれば、ケブラーのような金属に匹敵する強度を誇る素材もある。形状もまた金属のようにかたまりとして使われる場合もあれば、ナイロンのように繊維として使われることもある。一般的に水分に強く、金属のように錆びないのが特徴。加工性に優れ着色もでき、比重が小さいことも特徴にあげられる。そのためいろいろなデザインの製品を作ることができる。自転車でも仏国のサンプレが早くから目をつけ、樹脂(デルリン)製の変速機を製品化してきた。さらに摩擦係数が小さいことから、摺動部にブッシュレスで使われることもある。ナイロン軸受なるものまであるくらいだ。

原材料の違いで、金属並みの引張強度を持つもの、摩擦係数の極めて少ないもの、溶剤や薬品、油脂の影響を受けづらいもの、柔らかいもの・硬いもの、熱で溶けるもの・解けないもの、透明なもの、光に強いもの等いろいろな性質の樹脂が存在する。

 短所としては、樹脂は一般に固体と液体の中間的性質をもつ物質といわれ、長い間外力を受けつづけているとその力で変形してしまう。物によっては重力だけでその形を変えてしまうものもある。さらに光に弱いものも多く、太陽光線のように紫外線を含む環境の中にさらされていると自然に破壊してしまうものも多い。塗装の表面がガサガサになったり、ビニールのサドルやナイロンのバッグが自然に破れたり、プラスティックのパーツがヒビ割れしてしまったりというのも多くがこの光による劣化(光酸化劣化)によるものだ。また種類によっては溶剤や薬品、油脂に侵されやすいものも多い。

 今現在すべての環境に耐えられるオールマイティな樹脂は存在していないので、パーツの選択にはそれなりの知識が求められる。

ゴム

 ゴムもまた合成樹脂と同様、さまざまな種類がある。また物性も類似するところが多い。一般的に柔らかく弾力性に富み、変形しても元に戻るのが特徴。また、あらゆる物質に対して摩擦係数が高く、タイヤやブレーキシューに使われている。さらに変形しても元に戻るという物性から水や油脂等に対するシーリング材としての用途も多い。

短所としては一般に太陽光線に弱く、紫外線を浴び続けていると分解してしまう。また種類によっては溶剤や薬品、油脂に侵されやすいものも多い。乾燥と湿潤の繰返しに弱いものもある。自転車に使われる素材の中で自然環境やその変化に元も弱い物質といえるかもしれない。そのため消耗品として使われたり扱われたりすることが一般的だ。

革・皮

 旅行用自転車には自然素材も使われる。その代表がサドル。プラスティックサドルが一般化した時代でも、まだまだ革サドルにかなわないところが大きい。長い時間をかけて馴染ませた革サドルの乗り心地は、プラスティックサドルには到底まねできないところだ。欠点としては、水に弱いところ。湿潤と乾燥を繰り返しているとすぐダメになってしまう。またメンテナンスが面倒なところも欠点のひとつかもしれない。

コットン

コットンを使用するところはきわめて少ないが、それでも旅行用自転車にはなくてはならない素材。その一つがバーテープ。合成繊維に比べ汗を程よく吸収してくれ、肌触りも良い。

バッグもまた長距離の自転車旅行ではコットン製が欲しくなる。湿度によって繊維のきめが変化するため、乾燥時には通気性がよく、雨天時には繊維が膨潤し雨をしっかり防いでくれる。

さて、さまざまな環境下において旅行用自転車を長い間快適に走らすには、これらの素材をうまく使いこなしてゆくことが必要となる。競技用の自転車のように、その競技一回だけ持てばよいというものではない。時には何ヶ月も、何年も走りつづけなければならないこともあるからだ。

大きな力のかかる部分、応力が繰り返し発生する部分、スプリング効果を期待する部分、摩擦を受ける部分、また壊れやすい部分には当然鉄素材が求められる。自転車は壊れるもの、他の材質と異なり溶接等による修理性が高いというのもその理由の一つ。

特に強度を必要とせず、摩耗の心配もない部分には、軽量なアルミニウム素材が適当。旅行用自転車とは言え、無駄に強度を上げ重量を増す必要はない。ただしあまり力がかからない部分とは言え、繰返し外力の影響を受ける部分には使用しないこと。またどうしてもそのような部分に使わなければならない時には強度的に十分配慮された製品を選ぶべき。

これは多くのサイクリストが経験したことがある例だが、意外なところで、フロント変速機のバンド部分の破損が上げられる。日本には四季があり、シートチューブは年単位で大きく膨張と収縮を繰り返す。その気温差は3040度にも及ぶ。さらに朝と晩の気温差でも膨張と収縮が繰り返される。鉄とアルミニウムでは膨張率の違い(約倍異なる)から、繰返し応力が発生することになる。しかも厄介なことに応力はその最も弱い部分に集中する。さらにアルミニウムはちょっとしたキズが破壊の原因となるので、ヒンジ部の工作や組立て方法が影響することもある。乱暴なドリリング、粗悪なピンの使用、無理にピンが打ち込まれ残留応力が派生しているものは、そこに繰返し応力が集中し、ヒンジ部分の割れを誘発させることになる。

最も気を遣わなければならないのは樹脂素材。さまざまな樹脂が現れてはいるが、その使い方を誤ると極めて厄介なことになる。もちろんわれわれユーザーにはそんな知識や選択枠もなく、材料の選択はメーカー任せになってしまうことから、壊れて初めて気づかされるということになる。また樹脂の修理は極めて困難で、多くの場合交換修理ということになる。

少し前のこと、自動車のヘッドライトが劣化により曇ってしまったり、バックランプの色があせてしまったりということが頻発したことがあった。これなどまさに素材選択の問題と言えよう。特に光を浴びる部分、溶剤や薬品、油脂に接触する部分、小さな力でも力がかかり続けている部分、無くてはならない部分での使用は絶対に避けるべき。

ゴムの部品に関しては、消耗品と割り切るべき。ダメになったら替えればよい。とはいえ、タイヤやチューブ以外はシールドとして使われている程度なので、もしダメになったとしても走行に影響を及ぼすものはないので気にすることもなかろう。

ちなみに私の愛車で見ても、タイヤ・チューブと塗装以外で、ゴムを含める樹脂素材が使われているのは、ヘッド・テールランプのレンズ、アウターケーブル、ダイナモコード、ポンプホースぐらいだ。

 自転車旅行に大切なことは、旅行のスタイルに合った設計の自転車を選ぶこと。自転車旅行に合った部品を選ぶこと。そしてそれらは走行環境に適した素材で構成されたものでなければならないということ。そして最後にその素材に合ったメンテナンスを怠らないこと。

これらに気を配っていることで、さらに自転車旅行は楽しいものになるはずだ。

 旅行用自転車の設計は 素材選びからはじまる  自転車用フレームチューブの最高峰 英国レイノルズ社「531 旅行用自転車向け「スーパー・ツーリスト」というセットもリリースされていた いまだのこれに勝るフレームチューブはない
 仏国ユーレー社のオール鉄製変速機「アルビー」 同国の旅行用自転車メーカールネルスが同社の製品を好んで使っていたことから わが国でも人気が高かった 頑丈で修理性も高かったことから グランツーリズムやキャンピングに好んで採用された  ゴムが使われるのはタイヤとブレーキシューのみ 他の素材で代用することができないのもタイヤとブレーキシュー いずれも消耗部品の代表

 
ほとんどの部分に合成樹脂(デルリン)を採用した仏国サンプレ社の変速機「クリテリウム」同社は半世紀以上も前から樹脂素材に着目していた 長距離旅行用自転車に採用されることはなかったが軽量車やスポーツ性の高い自転車に採用されていた


競技の世界は言うまでもなく旅行用自転車の世界でもアルミニウムパーツが一般化している 今や鉄製の部品を使うことはなくなった ただし構造には注意が必要



旅行用自転車サドルの最高峰英国ブルックス社の「プロフェショナル」 いまだに長距離旅行用自転車の定番として使われている ちゃんと手入れをしていれば一生ものだ



自転車で唯一コットンが好まれる部分 コットンテープの感触は旅の疲れをいやしてくれる



ひとつのパーツでも 本体はアルミニウム 摺動部は黄銅 ネジやスプリング ワイヤーは鉄 シューはゴムというように素材が適切に使い分けられている


ボルトやナットには強度が高くかつ降伏点の高い鉄素材を使う

 



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