※自転車研究家の鈴木邦友評議員からの報告です。(2015年10月26日)
旅行用自転車 いろいろ
自転車で旅行をしようとするとまず思い浮かぶのが「ランドナー」をはじめとする旅行用自転車。今ではマウンテンバイクやクロスバイクに押され、販売台数も少なくなり、昔の自転車として語られることの方が多くなってしまったが、自転車旅行という分野では欠かすことのできない現役の自転車だ。一般的にはサイクリング車という分類で、ランドナーやツーリズム、キャンピングなどそれぞれの旅行の目的別に細分化される。最近では旅行用自転車を総称してランドナーと呼ぶこともある。
ランドナー
旅行用自転車として最もポピュラーなのが「ランドナー」。小旅行のための自転車で、通常日帰りから1.2泊ぐらいの自転車旅行に使われる。荷物の積載はフロントキャリヤに載せたフロントバッグだけのスタイルが一般的で、公道を道路状態や天候、時間帯に関係なく走れるよう、ドロヨケ、前照灯・後部反射鏡(尾灯)、警音器等の保安部品は標準装備だ。仏国から渡来した自転車のひとつで、本国では旅行用自転車の競技に使われることもあるため、高速走行に適したパーツ構成や軽量につくられたものもある。日本には純粋な旅行用自転車として伝わってきたこともあり、小旅行用モデルとして普及した。わが国の自転車は26インチが一般的であることから、旅行途中でも修理やメンテナンスに困らぬよう26×1-3/8車輪が採用されることが多いが、仏国風に650Bをはいたものも存在する。
ツーリズム
グラン・ツーリズム
もう少し長い旅行をするときに使われるのが「ツーリズム」。基本的にはランドナーとほぼ同じだが、さらに多くの荷物が積めるよう、フロントバッグの他に後部にパニアバッグを装着するパニアキャリヤと呼ばれる荷台が装備されている。中にはフロントにパニアバッグがつけられるように設計されたものもある。ランドナーと比べ荷物が多くなるので、ランドナーより多少太目のタイヤが使われる。
スポルティフ
逆にもっと軽快に走りたい方に好まれているのが「スポルティフ」。車輪も一回り大きな28インチ「700C」という競技用自転車に使われるチューブラーと互換性がある車輪が使われることが多い。もちろんタイヤも細め。保安部品は標準装備だがポジションはロードレーサーに近く、チューブラーで楽しむ方もいる。荷物はランドナー同用フロントバッグだけだが、キャリヤもバッグも小さ目だ。
キャンピング
グラン・キャンピング
最も長い距離・時間を楽しむための旅行用自転車が「キャンピング」。私たちアドベンチャーサイクリストの世界ではこれがスタンダードだが。その名のとおり長距離自転車旅行やキャンプを楽しむための自転車で、荷物の積載は大きめのフロントバッグの他に前後それぞれ車輪の両側にサイドキャリヤを装備しそこにサイドバッグをぶら下げる。さらに荷物を積むときにはリヤキャリヤを追加し荷物をその上に積み上げる場合もある。タイヤは太目の26×1-1/2や650-44Bが使われことが多く、最近はマウンテンバイクサイズの車輪が使われることもある。
デモンタブル
これらと異なった分類では「輪行車」というものがある。その名のとおり日本で生まれた自転車。車種分類で輪行車というのは分解式旅行用自転車のこと。分解して小さくし袋に入れて他の交通機関で運べるよう専用設計された自転車を指す。私たちが空輸でキャンピングを分解して袋に詰め込むように、どんな自転車でも輪行をすることは可能であるが、特に分解しやすく設計された旅行用自転車のことをいう。後ドロヨケが分割式であったり、クイックレリーズやウイングナットが多用され工具を使わなくても分解できるようになっている。スタイルはシンプルなランドナーに近いものが多い。「デモンタブル」というフレーム自体を二分割するタイプもある。
いずれの旅行用自転車もクロム-モリブデンやマンガン-モリブデン鋼等のフレームと鉄パイプキャリヤ、また部品の構成も一般自転車の規格と同じのものが好まれる。疲れ破壊に強いことと、修理が容易であること、どこでも部品の調達ができることなどが理由だ。鉄基素材ならば街の鉄工所で溶接修理ができ、ママチャリの部品で代用が効くからだ。
ところで、旅行の目的によりそれぞれの車種を乗り分けるのが最も好ましい。しかし全車種を所有することは難しい。よほどの自転車マニアでない限り通常そんなことはしない。
そこで、車種の選択する際には、最もハードな乗り方をする自転車を一台もつことをお勧めする。あなたにとって考えられる最もハードな自転車旅行で使用する車種を選択する。例えば1週間ぐらいの自転車旅行は考えられるが、それ以上長期間の自転車旅行やキャンプなど全く気もないのであれば、ツーリズムを1台所有する。当然本来の目的どおりの使い方をすることは年に何度もないので、いつもはリヤキャリヤを外し、オープンサイドタイヤに履き替え、小型のフロントバックを乗せておけばランドナーとしても使える。最初から分割式ドロヨケを採用し、ウイングナットやクイックレリーズを使用しておけば輪行車にもなる。ベースがキャンピングであっても、キャリヤやバッグ、タイヤ等をアレンジするだけでツーリズムやランドナーとしての使い方もできる。
実際基本設計が異なるので、厳密に言えばそれぞれの車種が持つフィーリングを味わうことはできないが、はっきり言ってその違いはわずかだ。しかも乗りなれた自転車ということもあり、全く気にならないというのが本当のところだろう。
競技の世界ではそれぞれの競技で異なる自転車を使い分けるのは当たりまえ。旅行用自転車も同じ。それぞれ目的に合ったスタイルで旅行を楽しみたいものだ。
鈴木邦友
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