“夢”のアドベンチャー・サイクリング
幼い頃、だれもが描く夢――見知らぬ世界をひとりで旅する─―このように大きな夢を持ちつつも、とかく人間は日常の些事に追われ歳をとるばかりで、旅行のためにかける莫大な時間や労力、費用のことを思うと、夢は夢としてどんどん遠ざかり、現実生活に埋没してしまうのが現状である。
自分の体力と精神力だけを頼りに壮大な計画に挑む。文明の恩恵を受けて育つ現代人にこそ、自分自身へのチャレンジとしてのアドベンチャー・サイクリングをもっと体験してもらいたいと願う。
自転車による日本一周、世界一周などのアドベンチャー・サイク リストは、みな大地を走りながら額に汗し、大自然から多くの事柄を学んでいる。「ぼくら人間について、大地が万巻の書より多くを教える。大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に 対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ」と、サン・テグジュペリの『人間の土地』にあるように、「世界共通」の真実 を教えている。
そして勇気と根気とわずかな金があれば、自転車が世界へ飛び出す知的冒険の立派な道具となることを知ってもらいたい。
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かつて自転車地球体験者たるアドベンチャー・サイクリストは、アイデンティティ(自己の存在証明。自分が何ものであるかということ)を見出すために、あたかも昔の農夫が自分の畑を耕すときのように、自己の精神土壌をコツコツと耕し、肥料を与えてきた。そうすることで、夢から現実を引き出す作業に没頭してきた。
すなわち、創設者の池本にすれば「3回におよぶ愛車タルーゼ号による5大陸、53カ国、5万kmの旅。そして、少年時代からの夢で あった自転車によるキリマンジャロ登頂を遂げることであり、幸いそれらのすべてを実現することができた」ということである。
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地球体験者は、自転車の旅を通じて数えきれないほどの人々と接し、その人達から有形無形の影響を受けてきた。また、多くの人々に支えられ、今日まで生き続けてきたのである。人間としては、まだまだ未熟だ。これからも、自立の精神を持ちつつ、多くの人たちとの交流を深めつつ、千里の道を歩む牛のように一歩また一歩、気長にペダリアン活動を継続してゆきたいものだと願っている。