「PEACE RUN2011アメリカ横断5,000キロランニングの旅」その3
高繁勝彦会員の「ピースラン・アメリカ横断ランニングの旅」レポート第3弾です。
「PEACE RUN2011アメリカ横断5,000キロランニングの旅」その3
アドヴェンチャー・ランナー 高繁勝彦
灼熱の砂漠を経て、長い大平原が続き、カンザス、ミズーリ、イリノイ、インディアナを経て、ようやく中西部の旅が終わった。
オハイオからアメリカ東部に入ったが、急に気温が下がり始めた。
10月終わりにニューヨーク州を含むいくつかの州で積雪があったという。
その雪が降った日に、オハイオでは冷たい雨が降った。
みぞれになる寸前かとも思われる本当に冷たい雨だった。
大した防寒具もなく、皮の手袋は濡れて指先も冷えて感覚がなくなり始め、濡れたシューズのつま先も走っている間はまだいいのだが、休憩で5分でも止っていれば凍りついてしまいそうに思われた。
旅の前半ではほとんど雨に降られることがなかっただけに、この雨はかなりこたえた。
その間、何度か仲間が応援に駆けつけてくれて、差し入れをくれたり、冬仕様のグラブなどを持って来てくれた。
ウエストヴァージニアからペンシルヴァニアへ。
寒さの次は山越え。
西のロッキー山脈以上にタフな走りを要求されるアパラチア山脈。
ロッキーのようにゆるやかな登りが延々と続くわけではなく、1日にいくつもの峠越えがあり、小刻みに登っては下るという、まるでジェットコースターのようなローリングヒルズといわれる峠道が続く。
登りではもはやバギーを押して時速3~4キロで歩くしかない。
だが、峠に差し掛かれば勢いに任せて下りでペースを上げる。
気温は時に氷点下3~4度まで下がり、雪が舞うこともあった。
積雪や路面凍結などがないだけありがたかった。
砂漠や平原とは違って人口密度の高い町が多いアメリカ東部、小さな町が断続的に現れて、それなりに人も店もあるのだけれど、小さい町はやはり大きな町とは違う。人も少ないし、店の数も種類も限られている。
残り約500キロというところで、5足目となるシューズを送ってもらった。旅のパートナーMUSASHI号(バギー)も故障することなく頑張っている。
ゴールのめどが立ったニュージャージー州に入って最期の試練が待っていた。
何度も道に迷い、その都度フリーウェイ状態の高速道路に迷い込む。
片側3車線路肩なしで車が時速100キロ以上で行きかうニュージャージー州道3号線。
入り口に歩行者禁止の標識がなかったのでうっかり進入してしまったのが運のツキ。
雨が降っていて水しぶきはかけられるし、罵声は飛ばされるし、すれすれで通過していく大型のトラックやトレイラー…。
次の出口に出るまで生きた心地がしなかった。
しかし、目的地にたどり着くために他に選択できるルートも見当たらず、仮に他のルートをたどるとしたら相当迂回して遠回りすることになるのだ。
自動車が走ることを前提に作られたアメリカのハイウェイ、そんなところにバギーでやってくるのが間違いなのだ。
分かってはいるけれど、それでも命懸けでフリーウェイに飛び込む。旅の最後に命だけは失いたくない…そんな思いで残りの数日を走った。
そして、いよいよゴール前日。
その前の日にも道に迷ったがために予定が大幅に狂った。
一日遅れで、スポンサーの久光製薬USの副社長Aさんと再会。AさんはLAで旅のスタートにも立ち会っていただいた。
最終日の11月24日はニュージャージー州フォートリーからスタート。
マンハッタンの最南端、ゴールのバーテリーパークまで約21キロ。
Aさんと娘さん、そしてわざわざこの日のためにニュージャージーとニューヨーク在住のランナーがあちこちから集まって伴走してくれたのだ。
ワシントンブリッジを渡っていよいよニューヨーク州。
20年ぶりに同じルートを走ることになる。
この日、アメリカはサンクスギヴィングデー(感謝祭)。
ニューヨーク市内では恒例のパレードがあり、一部交通規制もあって迂回を余儀なくされるが、大勢の人で賑わうニューヨークシティの観光スポットもいくつか経由して走った。
潮の香りが漂い始め、目の前に広がる大西洋にぽつんと浮かぶ自由の女神像……。
お昼前にバッテリーパークでゴール。
20数名の仲間と一緒にゴール。
さらに別の仲間たちがゴールで待ち受けてくれていた。
フジテレビニューヨーク支局の取材があって、テレビカメラを向けられると、さらにあちこちから観光客が集まってすごい騒ぎになってしまった。
最後は仲間と記念撮影。
スタートのロスアンジェルスから5285キロ、138日をかけて二本の脚でひたすら走り続けた。
PEACE RUN世界5大陸4万キロの旅の第一章の終わりだ。
だが、まだ残り4大陸、そして約3万5千キロ。
一本の道と二本の脚がある限り僕の旅は終わらない。
(完)
多くの人と出会い、多くの人に支えられて達成できた。
そして、さらなる冒険の準備をしています。