北アメリカ大陸縦断中

※JACC新年会に参加した自転車世界一周中のスペイン人サイクリスト、サルバ・ロドリゲスさんから北米サイクリングの報告が届きました。(2011年10月1日) 

アラスカの北極圏


みなさんお変わりありませんか。

私はアメリカ合衆国モンタナ州に来ました。3年前にキルギスで出会ったボニーさんとティムさんの家にいます。友人との再会は最高の気分です。ここ数日彼らと共に過ごすと、彼らが自分の本当の兄弟のようにさえ思えてきました。

北アメリカ大陸の大地は広大ですが思っていたより自転車での旅は易しいです。景色は雄大で、人びとは親切でのんびりしていて、自転車の故障と食べもの以外であまり困難がありません。3ヶ月間の旅の様子をお知らせします。

東京を離れてアンカレッジに飛行機で渡ると、アラスカの友人デーブが迎えてくれました。彼に連れられて訪れたデナリ国立公園では4日間の晴天に恵まれ、マッキンレー山の雄姿を眺めることができました。デーブはこんないい天気はめったにないと教えてくれました。デーブの言う通りで、その後カナダ南部のカルガリーにたどり着くまで4日以上連続で晴れる日はありませんでした。アラスカとカナダの夏は雨の日が多いです。

奇跡を信じられますか。驚くべきことが起こりました。私は時々星に願いを祈ることがあります。それはアンカレッジでのことでした。エアーアラスカのパイロットのフレッドさんと出会いました。彼は私の自転車を見て、「南米の南端まで自転車で旅するなら私の飛行機で北米の北端に行ってみないか。」と思いがけない提案をしてくれました。私はすぐに「Yes!」と返事をしました。すると、彼は私にアラスカの最北部に位置するプルードベイへの航空券をくれました。こんな素晴らしい出会いが私をこの世界旅行の虜にしてくれます。世界各地でこのような親切な人々に出会えなければ私のような貧しい放浪者は長い旅を続けることができなかったでしょう。感謝します。

ダルトンハイウェイ(アラスカ)
未舗装道路が続く

6月2日、アルゼンチンへの長い北南アメリカ大陸縦断サイクリングの起点となるアラスカの北の端に立ちました。北極海に面したプルードベイには椰子の木などサイクリストを歓迎するムードはまったくなく、飛行機を降りたとたんマイナス3度の激しい風を受けて凍る思いをしました。

ツンドラ(永久凍土)の地帯で最初の三日間は素晴らしかったです。他の世界には見られないユニークな風景があり、たくさんの氷が不毛のツンドラの大地に広がっています。時々強い風が私を道路からはじき飛ばしました。24時間太陽が沈まない北極圏での夜間に、テントの中で寝ようとする私を強い風がテントごと揺り動かしました。

南に進み、タイガ(針葉樹林)の地帯に入ると天候は少し穏やかになりました。ここから低木が生え始め、さらに南に進むとだんだん木々が高くなってきました。それでも800キロ以上の区間集落はありません。

未舗装道路から舗装道路に到着
野原でキャンプ

この道はダルトンハイウェイと呼ばれ、プルードベイからフェアバンクスまで830キロの間に2軒だけレストランがあります。道路は石や泥や土の未舗装なのでそこをサイクリングするのは本当の冒険だとイメージするでしょう。しかし、実際は冒険というほどでもありません。食料やキャンプ道具など生活用品は自分で運ばなければなりませんが、この道路には石油会社のトラックやオートバイ旅行者、キャンピングカーなど時々通ります。つまり、自転車でのダルトンハイウェイ縦断行は個人的なチャレンジではあっても、非常事態には他の交通者から救援を受けることが可能なのでちっとも冒険ではありません。アフリカのように泥んこになり、必死に急な上り坂を駆け上がっているときのこと。快適な四輪駆動車に乗ったきれいな服を着た観光客に写真を撮られました。彼は「ハロー!」と挨拶すらせずに私の写真だけ撮ると去って行きました。

フェアバンクス(アラスカ中央部)からカルガリー(カナダ南部)への道も町の間隔は800キロから1200キロ毎でそこには驚くような大自然が広がり、一方でたくさんのキャンピングカーで旅する人々や高額なキャンプ場を経営する人々がいます。不思議な世界です。私は12日分の食料をパニアーに詰め込んで大自然の中に入り、山や氷河、湖、動物のそばでテントを張って夜を過ごしました。一方キャンプ場では何百ものキャンピングカーがひしめき、彼らは自宅と同じ何不自由のない快適な生活を過ごしています。私はリゾート島ハワイの片隅に暮らすロビンソー・クルーソーを想像しました。本当に不思議です。ここは中央アジアなどではなく先進国にある“秘境”といわれている場所です。

ともかく、旅は素敵でした。カナダのユーコン州では広い谷間、雪を被った山々、氷のある川、素晴らしいキャンプ地と驚くほど素晴らしい風景がありました。広大な空間に沈まない太陽は不思議な世界でした。アラスカハイウェイを南へと進んで行くと次第に交通量が増え、20分おきくらいにキャンピングカーに出会うようになりました。しかし、午後6時以後の物音は観光客よりムースや熊であることの方が多いと知りました。

グリズリー(灰色熊)
ブラックベアー(アメリカ黒熊)

熊は私に面倒を起こしません。本当です。私は北米の人々が熊を過大評価していると思います。彼らは熊を危険だと決め付け、熊と立ち向かうことが冒険だと信じたがっています。ハンターやレンジャーではなく旅行者なら危険は低いです。「おろかな行為さえしなければいい」と教わりました。道路上で30頭以上の熊と出会い、いつも一人で野山にキャンプをしましたが一度も熊とのトラブルはありませんでした。熊たちは越冬のための食事の採取に忙しく、私を見つけると二本の足で立ち上がりますが、人間とわかるとまた気にせずに食事をしていました。私は何度も熊の写真を撮りました。もちろんキャンプをするときはテントから離れたところに食料を保管しましたが、40ドルもする熊よけスプレーなんていい考えだとは思えません。

熊の問題はアフリカの野生動物の問題と同じです。多くの問題は人間の間違った考えや不安に作用されます。地元の人々はそのような本当は危険でもないことを危険視して話したがっているように思えます。それは熊であろうが、テロリストであろうが隣の人でも、違った肌の色をした人でも構わない。これではよりよい世界にはならず不安をもたらすだけです。

カナダ南東部に位置するブリティッシュコロンビア州に入りました。こちらはアラスカやユーコンに比べて野性的ではありませんがもっと壮観な感じがします。湖はエメラルドの色をしていて、樹木に覆われていて、氷河がたくさんあります。カナダ南部に近づくと観光客がかなりの数に増えました。ブリティッシュコロンビアではカシアールハイウェイという最も車の少ない道路を進みました。狭い道で900キロにわたって補給ができません。深い森は静かで、とても美しく動物がたくさんいます。

アサバスカ氷河(ジャスパー国立公園)
世界一周オートバイ旅行夫妻と再会(カルガリー)

主要道路の国道16号を進み、アイスフィールド国立公園(ジャスパー、バンフ国立公園)に入ると交通量が増えました。道路のコンディションはよく、この国立公園はアラスカからここまででいちばん壮観な景色でした。エメラルド色の湖や氷河がたくさんあり、観光客もたくさん来ていました。この国立公園は大きく、300キロにわたっています。公共の道路が通っていて自転車も通行できますが、通行料を支払わなければなりません。

アメリカ合衆国のモンタナ州に入ると、2006年にスペインを出発してからの自転車での走行距離の合計が99000kmになりました。もうすぐ10万キロ達成です。これからメキシコそして南米へと進んで行きます。

写真や記事はこちらにアップロードしています。(スペイン語です)
unviajedecuento http://unviajedecuento.weebly.com/

サルバ・ロドリゲス

ビザ

日本人はスペイン人と同じでアメリカ合衆国に90日以内の観光目的ならビザは不要です。ただし入国前にビザ免除のための電子渡航認証システム(ESTA)に認証されなければなりません。ESTAへの認証はインターネットで申請し、14米ドルをクレジットで支払います。

アメリカ(アラスカ)を出国しカナダから陸路で再入国する時はインターネットでの申請は不要ですが、国境でまず6米ドル支払ってESTAを解除手続きし、6米ドル支払って新たなESTAを取得すれば90日の新たな入国が認められます。

食費

北米での自転車旅行の費用は思ったほどは高くなかったです。自炊でやっていくなら、食料品だけで70米ドル(約6000円)あればカナダで8~10日、アメリカでは10~12日過ごせます。もちろん大きなスーパーマーケットで食料を仕入れた場合です。(小さな村の小さな食料品雑貨店では高いです!) いつも安い大きなスーパーマーケットで大量に食品を購入しています。喫茶店では1.5米ドルや2ドルでは何も食べられないしコーヒーすら飲めません。彼らがコーヒーと呼ぶその飲み物は無料にするべきような味がしました。

図書館

図書館は雨から避難する休憩地にもってこいです。ピクニック用のテーブルはあるし、インターネットが無料で使用できます。公園や観光案内所も休憩にとても便利です。

宿泊

公設キャンプ場ですら10米ドルから16米ドルもします。しかもキャンピングカーに囲まれてうるさかったり、シャワーがないキャンプ場すらあります。だから大自然の中でキャンプをすることをおすすめします。もちろんシャワーはありませんが静かで美しい場所がいくらでもあります。

キャンプ以外にサイクリストにとってはとっておきの宿泊場所があります。それは、ウォームシャワーズ組織(warmshowers.org)を利用する方法です。これはサイクリストを自宅にもてなすボランティアの人々の家での宿泊です。宿泊とシャワーの提供だけでなく、楽しい地元のサイクリストたちとの友情ができます。新しい友達との出会いはまた旅を続ける勇気を与えられます。

サイクリストのホスピタリティーリスト 
warmshowers http://www.warmshowers.org/

サルバ・ロドリゲス
(スペインのグラナダ市出身)

2011年10月1日現在
現在地:アメリカ合衆国・モンタナ州
走行期間:70ヶ月
走行総距離:99000km
タイヤのパンク回数:176回
タイヤの使用数:14本
上った峠の数:記録していません
友達の数:まだまだ増えます
パスポートの数:3冊
ホームページ:unviajedecuento


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